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気の向くままに、現在と過去のcultureについて綴ります。どうぞ、お気楽にお付き合いください。

ウエス・アンダーソンの作品と新作『犬ヶ島』のこと

とうとう、というか、ようやく

犬ヶ島』を観てきました。

 

 

あの「ウエス・アンダーソン」監督の新作です。

 

この監督の作品を最初に観たのは、

ムーンライズ・キングダム』(12年)でした。

これです。

 

 

そして、次に観たのが『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)

これ。


 

なんか、ふたつとも「絵葉書」みたいですね。

 

この監督の、明快な色彩設計

そしてシンメトリー(左右対称)への偏愛から来るものでしょう。

それと、カメラは据え置きで、あまり動きません。

 

さてまず、『ムーンライト・キングダム』から説明させてください。

 

舞台は1960年代のアメリカ。

ボーイスカウトのメガネ少年がキャンプを脱走、好きになった女の子と待ち合わせて、駆け落ちをするというお話。

 

 

もちろん大人たちは彼らを「保護」しようと追いかける。

その大人たちは、陰で「不倫」とか、うさんくさいことをやっています。


 

ふたりは一度捕まってしまいますが、

他の少年たちの手助けで、負けることなく再度駆け落ちを敢行。

 

 

こう説明すると「小さな恋のメロディ」的なかわいい映画かと思うでしょ?

まあ実際、そういうところもあります。

でもこの作品、ただの「心温まる」映画ではないのです。

 

最初のうち、観客は彼らふたりが一体何をしたいのか、もうひとつわからない。

 

だって、ふたりともそれぞれの内に閉じこもってる感じだし、

ひたすら歩くばかりだし

 

 

で、こんなところにやってくる。

 

小さな入り江の砂浜。

彼らはここを「ムーンライトキングダム」と名づけます。

シンメトリー(笑)

 

 

少年が持ってきていた「ポータブルプレーヤー」をかけ、

変なダンスを踊ってしまうふたり。

 

いきなりな展開なんですが、

ここで奇妙に開放的な風が吹くんです。

アメリカの60’s風俗ごっこ

 

子供だから精いっぱい「背伸び」してるんですけどね。

 

 

で、こんな場面につながる。

 

観客は突然のことにハット驚かされ、そして

「そうか、これって恋愛映画なんだ」

とキュンと納得させられる。

 

そう。これは何というか、

それまで閉じこもっていた「繊細なオタク的感性」が、

心の内部からあふれ出して、そして逸脱し、

あげくの果てに大暴走して、

「世界」を突き破っていくという、

大変好ましい作品でありました。

 

 

さて『グランド・ブダペスト・ホテル

 

こちらは「ズブロッカ共和国」というヨーロッパの架空の国が舞台。

 

 

こちらのご高齢資産家夫人が突然死。

 

 

そして自分の財産を、ホテルのコンシェルジェであるこの色男に相続すると遺言。

 

 

(見よこの色彩)

 

遺族はもう大騒ぎ。

そのことから巻き起こる謎解き冒険活劇的なお話なのですけれど。

 

観客を、「3つの時代と現在にまたがるミステリー」という乗り物に乗せ、

次から次へと現れる、甘くて、綺麗で、ファンタスティックな、

まるで豪華な洋菓子みたいな「人口世界」に

溺れさせてしまうというのがこの作品。

 

(見よ、この構図)

 

あまり立派なひとや良いひとは出て来ない。

基本的にみんな自分勝手。

そしてそんなにいやな人もいません。

 

でも、軍警察や

 

 

恐ろしい不死身の殺人鬼に追われたりもしますが、

 

 

それも甘さの中のビターな味付け。

あらゆるものすべてが「作り物」である世界。

その中で繰り広げられるドタバタ。

 

 

「こういうタイプの作品はままあるよね」

と思われるかもしれません。

 

けれどですね、これは観客に向けたエンターテインメントでありながら、

監督は自分の趣味性を満足させることに全精力を傾けているのです(!)

 

というわけで、豪華で、美しく、気が利いていて、本当に楽しい作品。

半面、好みに合わなければ…

とまあ、観る人を選ぶ作品ではあります。

 

 

そしてこちらが監督の御近影。

 

 

どうですか。

「お人柄」が見た目にも現れてる。

 

 

さてさて、今回の『犬ヶ島』は

 

なんとストップモーションアニメ。

CG全盛のこの時代に
古式ゆかしい「コマ撮り」作品なのです。

 

人形を少しずつ動かし、

24コマの撮影でやっと1秒という、気の遠くなるような作業。

 

 

登場人(犬)物の面々

ほらまたシンメトリー(笑)

 

 

人形をすこしずつ動かしての撮影。

「ピングー」とかとおんなじです。

まあ、ピングーはクレイ(粘土)アニメだし、短編ですけどね。

「マック、マーック」

 

 

そしてですね、

今回の舞台はなんと日本なのです!

近未来の工業港湾都市「メガ崎市」

(「川崎」と「長崎」が合体したようなイメージ)

 

 

恐ろしい「犬インフルエンザ」が流行したため、

犬たちは捉えられて「犬ヶ島」に隔離される。

 

主人公の少年「アタリ」は、愛犬を助け出そうとするが、

その裏にはある大きな陰謀があった、というお話。

 

それを暴こうと活躍するのは「メガ崎高校新聞部」の面々。

いいねえ。

 

 

この作品で描かれる「日本」は、もちろん誇張されているのですが、

けれど、よくあるような面白おかしい「オリエンタル趣味」ではないのです。

 

 

何というか、創作の基本姿勢に、

日本文化に対する、「尊重」と「尊敬」

そして「愛」が感じられるのです。

細部の魅力を決しておろそかにしない

 

だから観ていて、

「ああ、こういうのは日本のいいところだよなあ」

と気が付いたりするし、

ちょっとこそばゆいのですけれど、

自分が日本人であることに胸を張りたくなります。

 

監督は昭和の日本映画から多くを学んだようです。

特に黒沢映画が大好き。

 

悪役「小林市長」のモデルは、「天国と地獄」の三船敏郎だし。

 

 

 

犬ヶ島」の犬たちが立ち上がるシーンでは

荒野に「七人の侍」のテーマが鳴り響きます。

 

ぱっぱっぱ、ぱーぱーぱー、ぱーぱぱぱー♪

 

 

いっそ「バタバタバタッ」という音とともに、幟旗が翻って欲しかった!

 

 

 

とまあ、あとは劇場でお楽しみください。

 

 

えー、今回は、「ストップモーションアニメ」という表現の特殊性と魅力

これについて少し述べたいと思ったのですが、

長くなったのでそれは次回に(なんかこればっかしですみません)

 

おやすみなさーい。