「定食屋」放浪
JR中央線の「荻窪駅」
この駅の周辺には、古くから馴染みがあります。
妻と結婚した当初、
西口から3分ほどのところに住んでましたし、
職場が四面道の先にあったこともあります。
芝居の稽古にも、一時期「荻窪区民センター」を使用していました。
そんなこんなで、荻窪駅北口の「富士食堂」という定食屋さんには、
かれこれ約30年にわたり通わせてもらいました。
特に3年前に退職、再就職をして、
定時で帰宅できる気軽な身分になってからは、
ヨガやボクシングジムに行く、あるいは遅い時間の映画を見る、
そういう日以外は、
ほぼ毎日、ここで晩ごはんをいただきました。
行くとまず、イカゲソ揚げなんぞで宝の缶酎ハイ(500ml)を飲む。
いやあー、うまい。
テレビを見たりしているうちに、
選んだ日替わりの定食が運ばれて来る。
定食は種類が豊富。
定食以外にも、たくさんの一品物があって、
あれこれ組み合わせを考える。
いったい何十種類あるのか、
メニューは短冊に書かれて、店中の壁せましと張ってある。
ぬた、おしたしなどは150円。
天ぷら類は250円。
種類もスゴイが量がまた多い。
特に天ぷらは一人で頼むと、
他の料理が食べられなくなるほど。
大型の魚も一尾丸ごとを仕込んでいて、新鮮なうちは刺身で出し、
鮮度が落ちるとフライにして定食で出していました。
また、
「カレーのルーだけちょうだい」とか
「味噌汁に卵を落として軽く煮て」とか
「納豆(70円)トリプルにしてネギ多め、マグロブツにかけて、卵の黄身を落として」とか
物理的に可能な希望はなんなく叶えてくれる。
加えて、常連客の好みを覚えており、
ビールは各人の好みの銘柄が出されるし、
定食でも、
例えば私が、「鶏ちり鍋。定食で」と頼むと、
味噌汁は出さずに、ご飯は小ライス(他に小皿とお新香が付く)
と、私仕様にして出してくれるのです。
客層はサラリーマンと高齢男性が主で、
「学生時代からずーっと通ってます」と言う人も多い。
調理場は70代半ばの主人と50代の方のふたり体制。
そして、
みんなに「マスター」と呼ばれている息子さんが客からの注文を受け、
それを気だるげに調理場に伝える。
ここは何十年と常にそんな調子。
いつも変わらぬ空気が流れているのです。
と言っても、何もかもが変わらなかったわけではありません。
元のお店はこの路地より一本駅寄りの、
もう少し広く、もう少し賑やかな通りにありました。
それが、隣のお店を買い取って、倍の広さに大躍進。
ところが、しばらくのちに、突然閉店してしまったのです。
どういう事情があったかは知りません。
跡には、大手ファストフード系の定食チェーン店が出来ました。
常連客の嘆くまいことか…
だがしかし、その落胆はほどなくして解消されました。
裏の路地の飲み屋跡に、「居抜き」の形でかなり狭くはなりましたが、
青い看板も明々と、新店舗が「再建」されたのです!
ここでちょっと「荻窪豆知識」
元々この辺りは、
戦後の闇市から発展した「振興マーケット」があった場所です。
ですが、安普請の木造の店舗は老朽化し、火災も発生しました。
より駅に近いエリアにあったお店は、
立ち退く代わりに、新たに建築された駅ビル
「タウンセブン」の中に移りました。
しかし少し離れたこの辺りは、まだまだ「戦後」の危ない気配を残していて、
飲み屋さんがたくさん
その名も「荻窪東銀座」
現在空地のこの場所には、「3000円」という恐怖価格のピンサロや、
「つまみはすべて170円」という、イカ料理専門の飲み屋があったりしました。
そんな中にあって、「富士食堂」は、
正に「昭和オヤジたちの幸福な楽園」だったのです。
それが、昨年末突然に…
ああ!!
※ この項続きます。