Movies,Musics,and More

気の向くままに、現在と過去のcultureについて綴ります。どうぞ、お気楽にお付き合いください。

「三月書房」で買った本、買わなかった本




先日、懐かしい「三月書房」のことを書いたので、

そこで購入した本のことなどを少し。

 

まず買った本。

 

 

片山健「エンゼルアワー」


片山健と言えば、「こっこさん」シリーズや「たんげくん」など、「日本絵本大賞」も受賞し、今や絵本界の大家ですが、

 

 

私が学生の頃は「SMセレクト」誌などに、

街角に遊ぶ少年少女たちを独特のエロティックな鉛筆画で描いていました。

 

「SMセレクト」というのは、「SM」を扱った月刊誌です。(※1)

 

 

片山健の初期の作品は、

SMセレクトに載ったものも含めて「美しい日々」としてまとめられていますが、

 

この画集ではそれをさらに発展させています。

バルテュス」(※2)を日本の湿度のある土壌に移した感じ、

と言えばいいでしょうか。
当時片山氏は、絵本の原稿を持ち込んだ出版社に

「君には絵本はムリ」と言われていたとか。

そういう時代の鬱屈と、それを乗り越える意欲が現れた画集です。


限定1000部サイン入り。

一目見て欲しくて堪らなくなり、散々迷った末に購入。

ポパイのオリーブみたいな宍戸さんの奥さんが、奥に保管してあったきれいなものを渡してくれました。

 

 

買わなかった本

 

「幻の10年」

 


不思議で衝撃的な漫画でした。

 

作者についてはよくわかりません。

あとがきを「かわぐちかいじ」(※3)が書いていたので、

明治の漫研出身(※4)だったのかなと思います。


100ページほどの薄い本で、同人誌のような装丁だったので、

自費出版だったのでしょう。


開いて驚くのはその密度の濃さ。

 

全ての物が、偏執狂かと思うほどの明細さで書かれていて、

ページのどこを開いても真っ黒。


少女が夏休みに帰郷し、

その一夏の経験が描かれているのですが、

少女があぶなげに存在していた、

「その夏」の世界全部を、

少女の眼球に一瞬映り込んだもののすべてを、

一つ残らず、余さず描き切ろうとする、

馬鹿げたほどに強烈な意思が感じられました。

 


先輩の下宿を訪れた場面など、本棚にずらりと並んだ本の背表紙。

掛けられた絵。吸ってる煙草のパッケージ…

それらを克明に描くのに、一体どれほどの時間がかかったか、

ましてやこの全編を描くのには…と気が遠くなりました。


「漫画」というより、一種の「奇書」と捉えた方がいいでしょう。


かわぐちかいじの「解説」も、説明とかでなく、

「とにかく読んで圧倒された」とだけ書かれていたと思います。

 

いかにも自費出版の冊子なのに、価格が、エンゼルアワーとほぼ同じで、

見かけに反して非常に高価。

 

出会ったのは私がもう東京に移ったころで、

「今度京都に行ったら絶対に買おう」と決意し、

三月書房に行っていざ手に取ると、

今度はその値段のために踏ん切りがつかず、

何年も間散々迷って、

そのうち三月書房のレジ横の棚に見かけなくなってしまいました。


これは私にとって、昔目にしたことのある幻の本でした。

 

今回、ネットを探しまくって、ようやく作者名「小崎泰博」がわかり、画像もその一部を見ることができました。

 

自費出版ではなく、「東考社」(※5)から出た本でした。

 

 

なるほど、「東考社」だったのか!

そういえば、三月書房には、

まるで自費出版のような装丁の水木しげるの文庫本(※6)

がたくさんおいてあり、それが「東考社」のものでした。

 

「情報」は歩いてコツコツ手に入れていた、そんな遠い時代の話です。

 

 

※1 エロス方面の雑誌というのは当時、

淫靡かつ秘密めいた大人の匂いがありました。

大体は書店の店主の近くの棚にあり、

若い人は店主の目が気になって立ち読みができない。

レジに持っていく勇気もお金もない。

万引き警戒と青少年保護のためだったのでしょう。

書店で手に取ることさえできなかったのに、

いったいどこで読んでいたのか?

下宿近くの古本屋さんです。もう読み放題(笑)

 

「SM」といえば、本来はかなり趣味性が高いはずなのに、

なぜか「SM雑誌」はメジャーな存在で、

団鬼六編集の「SMキング」を筆頭に数種類出ていました。

中でも「SMセレクト」は、一般読者が読んでも面白く、

また片山健の他にも「佐伯俊男」など若いイラストレーターに自由に描かせており、

今で言う「サブカル」的な編集で若者に人気がありました。

そういえば、ふたりとも澁澤龍彦のお気に入りの画家でもあります。

他にも、「花輪和一」や少し後年になりますが

石井隆」も書いていた記憶があります。

 

SMセレクト誌

 

「美しい日々」

 

※2「バルテュス」の少女たち

 

佐伯俊

三上寛のレコードジャケットや、山田風太郎の文庫でもおなじみ。今や、海外でも画集が出版され、高い評価を受けています。

 

澁澤訳の「長靴をはいた猫」の装丁と挿絵が片山でした。これもまだあまり売れていないころの仕事です。

 

花輪和一

寺山修司の映画の美術も担当。

一時姿を消していましたが、モデルガンで逮捕、出所の後、驚くばかりの活躍ぶり。


 

石井隆

死とエロスの作家。「死場処」という画集もあります。漫画家からシナリオ作家、そして今では映画監督。

 

※3 かわぐちかいじ

昔、かわぐちの書く人物はみな一様に、暗ーい目をしていました。

「牙拳」好きだったな。

改めて考えると、私が定年後にボクシングを始めたのは、

あしたのジョー」もありますが、「牙拳」の影響が強いです。

沈黙の艦隊」は読んでません。

 

※4 名門明大漫研

 

※5 貸本屋さん向けの本。今ではコレクションの対象で非常に高価。

※6

文庫サイズの簡易印刷、桜井文庫(社長が桜井昌一氏)の名称で「ガロ」系の漫画家の本をいくつも出していました。

ガロを出していた青林堂の永井勝一氏も貸本出版出身ですから、強いつながりがあったようです。

ガロもそうですが、ここも作家にお金は払っていなかったと思われます。

 

 

今回はブログの看板どおり、だいぶ「アングラ」寄りの記事になりました(笑)