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気の向くままに、現在と過去のcultureについて綴ります。どうぞ、お気楽にお付き合いください。

荒木一郎=不良の品格


 

荒木一郎


 

というと、

一般的にはどのようなイメージなのでしょう。

 

「空に星があるように」「愛しのマックス」「今夜は踊ろう」

などのヒット曲を歌った歌手、といったところでしょうか。

各曲は作詞作曲も荒木自身です。

 

時はフォークブームの前ですから、

日本最初期のシンガーソングライターと言えるでしょう。

 

 

また俳優としては、

高校生の頃から「バス通り裏」など初期のNHKテレビ、

893愚連隊」「現代やくざ血桜三兄弟」などの東映映画、

さらには大島渚の「日本春歌考」でのニヒルな高校生役など、

どの作品でも、いつも強い印象を残しています。

 

歌う若い俳優としては、

加山雄三の明朗快活でスポーツマン的な「陽」に対して、

荒木のキャラクターはやはり「陰」と言えるでしょう。

 

そして、一般的なイメージをもう一つあげるなら、

オーディションに来た女性に乱暴をしたとされる事件」のため、

芸能界を一時干されていた印象が大きい

(この事件、双方の言い分が食い違い、結果的には示談・不起訴となったので、真相は藪の中です)(※1)

 

 

その荒木一郎の周辺がこのところ騒がしい。

まず、名作と評判のみ聞こえていた自伝的小説「ありんこアフターダーク」(※2)が

文庫で復刻。

「芸能生活50周年3Day’sコンサート」の4枚組DVDが発売され、

そして今回、

「まわり舞台の上で」という厚さ3.5センチの分厚いインタビュー本(※3)が出ました。

 

これがもうやたらと面白い!

 

テレビに出始めたころから、自分たちのセリフがつまらないと書き直す。

カメラアングルにも遠慮なく口を出す。

下手に使われると自分が下手くそに見えるからというのがその理由。

そして実績でそれを認めさせてしまう。

 

そんな才走った部分と状況を突き放して見る性向、

そして関わりあった人たちにはとことん付き合ってしまう懐っこさ。

それらが混ざり合ってなんとも魅力的な性格を形作っています。

 

母親は新劇女優の荒木道子

彼は、母一人子一人で育ったとのこと。

 

 

さいころ、大勢で遊んでいても夕方にはみんなそれぞれの「家庭」に帰ってしまい、

自分は一人残される(母は劇団の旅が多い)。

だから、「みんなを自分の周りに引き止めたい」という気持ちが強くなり、

時には近所の女の子を集めてストリップショーを開いて見せたりしていたとか。

「女の子だって本当は脱いで見せたい気持ちがあるわけで、

ただ、断らない環境をうまく作ってあげることが大事」という。(笑)(※4)

 

そして、自分を顧みず必要以上に周りの面倒を看てしまうクセがあるのは、

自分に帰る「家庭」がなかったのが影響していると分析しています。

 

 

荒木の本を読んでまず感じたのは、

そうだ、昔は『不良』ってかっこよかったよなあ、ということ。

 

彼らは常に「新鮮な風」を先取る感性を持っていて、

そしてためらいなく素肌をさらし、鋭い刃が待つ状況に分け入っていく。

 

ワルいこともするけど、見知らぬ世界の匂いを嗅がせてくれました。

そんな「不良」ってあまり見かけなくなくなってしまいましたね。

今の「ヤンキー」ってどうなんでしょう。

 

荒木は最近こそあまり役者として見なくなりましたが、

松田優作の「遊戯シリーズ」にも出ているし、

仁義なき戦い」では、千葉真一になぶり殺しにされるあの下っ端ヤクザの役は、

荒木が広島に行くのを断ったので、川谷拓三に回ったといいます。

 

 

とにかくエピソードの宝庫のような人(※5)なので、

ぜひともインタビュー集を読んでいただきたい。

 

ですが、少々値段がお高いようなので、

まずは文庫で買える「ありんこアフターダーク」から手に取ってみてください。

 

絶対のおすすめでございます。

 

 

(※1)当時荒木は質問に答えて「今回のことは本当に濡れ衣なんだけど、思えばこれまでかなり酷いこともやってきたから、まあそれを考えて大人しく謹慎することにした」という発言をしていました。

 

(※2)「ありんこ」は渋谷道玄坂にあったジャズ喫茶。語られることの少ない「東京オリンピック前の東京」を舞台に、バンドを組んでダンスパーティで稼いだり、かなり無茶なナンパをしたり、ヤクザとタメで交渉したり、睡眠薬中毒の少女を救ったが結局自分が入院したりと、常に全身生傷の絶えなかった生活を綴っています。装丁は和田誠でとてもかっこ良い。

 

 

(※3)今、インタビュアーといえば”本人以上に本人を知っている”「吉田豪」なわけですが、私の若いころはなんといっても、”二時間に及ぶディープインタビュー”「高平哲郎」でした。私は昔、「ありんこ」を書く以前の荒木への高平のインタビューを読んで強烈な印象を受け、それがいまだに忘れられず今回即購入いたしました。

 

(※4)同じような環境だった寺山修司が、やはり似たエピソード残しています。寺山の方は母親(米兵の「オンリーさん」だったのではないかといわれています)の派手な下着を、部屋中に飾ったショーを、近所の子供たちに見せたらしい。寺山も死ぬまで「劇団」という集団とともにあったわけですから、荒木の自分への分析と併せ考えると興味深いです。

(※5)

この人の行動には自分の利に対する欲がないのですね。けど、「約束」を守らないと殴ったりする(笑)「愛のコリーダ」の主演を断った理由や、大原麗子と分かれた話も出てきます。個人的には「日本春歌考」がなぜああいう奇妙な映画になったのか、それが今回わかって、長年の胸のつかえが取れました(笑)

 

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